ごあいさつ
論文抄読のまとめ 2024〜 (歯科関連の方へ)
下顎臼歯部におけるインプラント天然歯混合支台3ユニットブリッジの臨床的比較
原題 :Clinical Evaluation of Mandibular Posterior Three-Unit Combined Tooth-/Implant-Supported Fixed Partial Dentures : Controlled Prospective Clinical Study
筆者 :Orhun Ekren / Elif Figen KOcak / Yurdanur Ucar / Mehmet Emre Benliday /
Huseyin Can Tukei / Hazal Duyan Yuksel
掲載紙: JOMI Vol39-3 2024 P426-434
PURPOSE
下顎臼歯部における天然歯・インプラント混合支台3ユニットブリッジの臨床成績及び合併症を評価すること
MATERIALS AND METHODS
・2015年から2022年に大学病院(CUkurova Univ.)に来院した患者
→統計的分析に必要とさせる78名
・3グループに分類
インプラント支台のみ群→Group1
天然歯と8-12mm長さのインプラントの連結群→Group2
天然歯と5-6mm長さのインプラントの連結群→Group3
・インプラントはSLA(sandblasted large-grit,acidetched)表面を持つNucleOSS T4 T5インプラント
・第一小臼歯と第一大臼歯 または 第二小臼歯と第二大臼歯 支台の設計でGroup2及びGroup3においてはそれぞれ遠心支台がインプラント
・補綴物装着後及びリコール毎にMPI, BI,ポケット深さを計測
RESULTS & DISCUSSION
・78人中全データが得られたのは63人(5人が死亡・3人が転居・7人がCOVID-19関連によりドロップアウト)
・MPIはGroup1が有意に低く、2,3間に差は認めなかった
・BIは有意差なし
・CBLはGroup3が有意に低く、1,2間に差は認めなかった
・Group1において1人にセラミックのチッピングを認めた
・Group2において2人にチッピング、2人に補綴物の脱離、2人にリセッション
1人に再製、1人に歯髄炎を認めた
・Group3において1人に知覚過敏を伴うリセッション、1人に無症状のリセッション、1人にディスインテグレーションを認めた(撤去)
CONCLUSION
・本研究結果からはインプラント支台ブリッジが下顎臼歯部欠損症例における第一選択といえるが、天然歯との連結設計も予知性のある方針であり、ショートインプラントに優位性を認めた。
臼歯部単冠インプラント治療におけるデジタル法と従来法における治療時間の比較
原題 :Comparison of Treatment Time for Single-Implant Crowns Between Digital and Conventional Workflows for Posterior Implant Restorations : A Randomized Controlled Trial
筆者 :Worapat Jarangkul, MSc / Chatchai Kunavisarut, MSc /
Suchan Pornprasertsuk-Damrongsri, PhD / Tim / Joda, PhD
掲載紙: JOMI Vol39 issue2 P286-293
PURPOSE
臼歯部単冠インプラント治療におけるデジタル法と従来法における治療時間の比較を行い、使用材料による違いに関しても比較すること
MATERIALS AND METHODS
・40名の臼歯部インプラント単冠補綴患者をワークフローによりデジタル法と従来法、及び使用ブロック(ポリマー含有セラミックと2ケイ酸リチウム)の種類により10名ずつの4グループに分類
・インプラントの埋入を外科医が行い、補綴処置は印象と装着を別の補綴医が行った
・技工物は熟練した技工士が作成し、データ分析は独立した研究者が行った。
・デジタル法におけるIOSはiTero 5Dを用い、従来法の印象には3M Impregum Pentaを使用した。
・対合歯の印象はアルジネート印象材を用い、咬合採得はシリコンバイトを使用した。
・完成した補綴物の調整はダイアモンドバーとシリコンポイントを用いて行い、30分以上の調整が必要なケースには再印象を行った。
・チェアーサイド及びラボサイドにおける所用時間を計測し比較した。再製が必要であった場合は1時間を追加して計算した。
RESULTS & DISCUSSION
・ラボサイド及び全治療時間はデジタル法が有意に短かった。
・咬合面の調整にかかる時間はデジタル法が有意に短く、隣接面の調整時間には差を認めなかった。
・ポリマー含有セラミック群は2ケイ酸リチウムに比べデジタル法・従来法ともに咬合面の調整時間が有意に短かった。
・無調整及び再製の件数に関しては全群において有意差を認めなかった。
CONCLUSION
1 デジタル法、従来法ともに臼歯部単冠インプラント治療の良好な治療結果を得た。
2 デジタル法は従来法に比べ、使用材料に関わらず治療時間が短かった。
3 最終補綴の装着時間には差がなかった。
4 IOSを用いた片側のスキャンにかかる時間は従来法における印象時間より短く、ラボサイドにおける作業時間もデジタル法の方が短かった。
5 再製に関しては各グループ同程度であった。
ピエゾサージェリーによる頬側骨移動術:下顎骨の水平的骨増大術変法
原題 :PIezosurgical Buccal Plate Repositioning Technique : A Modified Surgical Approach for the Horizontal Augmentation of Atrophied Mandibles
筆者 :Mostafa M. Elshafey, / Ziad M. Tarek, / Rania A Farmy,
掲載紙:JOMI Volume39, issue1 P57-64
PURPOSE
下顎における頬側骨の移動術を改良した顎堤増大術を紹介すること
MATERIALS AND METHODS
・24名の患者をランダムに3群に振り分け
A群 頬側骨移動術 + 吸収性シリカ
B群 頬側骨移動術 + DFDBA
→A B ともに PRF 併用
C群 下顎枝からのブロック骨移植術
・A群B群においては使用材料を術者・分析者ともにブラインド
・術式(グループA群・B群)
1浸潤麻酔下にて切開・剥離
2 ピエゾサージェリーにて頬側骨を水平的及び垂直的に骨切開
3 2つの穴を形成後、ピエゾサージェリーにて頬側骨を離断
4 頬側骨を戻し、ピン(1.4×10mm)にて意図した位置に固定
5 骨鋭縁部をピエゾサージェリーにて形成後、補填材料を添入
6 PRF膜にて移植材をカバーし、減張切開及び縫合
・術式(C群)
下顎枝より採取したブロック骨を形成し、デコルチフィケーションを行なったのちに減張切開及び縫合
RESULTS & DISCUSSION
・A ♂2 ♀6 (平均45.40歳)
平均4.3mm拡大
・B ♂4 ♀4 (平均42.80歳)
平均4.98mm拡大
・C ♂6 ♀2 (平均44.31歳)
平均3.68mm拡大
CONCLUSION
頬側骨の水平的移動術は、ドナーサイトを必要とせず、インプラント埋入に必要な骨幅の獲得が可能となる術式である。
統計用語 まとめ
二項検定 (binomial test)
対応なし
説明変数は1つのみ
従属変数は二分するカテゴリカルデータ
ノンパラメトリック
2つのカテゴリに分類されたデータの比率が、理論的に期待される分布から有意に偏っているかどうかを、二項分布を利用して調べる統計学的検定
例)サイコロは1/6 じゃんけんは1/3 商品AとBに差がないとすれば1/2 などと理論値を用いて検定する
カイ2乗検定(Chi-squared test)
対応なし
説明変数:カテゴリカルデータ
従属変数:カテゴリカルデータ
ノンパラメトリック
1つまたは複数のカテゴリにおいて、予想されたことと見られたことの間の差異を決定する統計的な方法
例)開発中のチョコレート菓子を試食してもらい、おいしいか否かの2択で回答
マクネマー検定(McNemar's test)
対応あり
説明変数:カテゴリカルデータ
従属変数:カテゴリカルデータ
ノンパラメトリック
対応のある2分型の2つの処理の結果に差があるかどうかを検定
例)選挙前後の特定政党支持率の調査 投薬前後の被験者の状態評価
T検定(t-test)
対応なし
説明変数:カテゴリカルデータ
従属変数:連続変数
パラメトリック
2つのサンプルの平均値を比較する際に、統計的に意味のある差があるのかを判断する際に用いられる分析手法
例)学校の二つのクラスにおいて、和食だけを食べるクラスと洋食だけを食べるクラスに分けて、3ヶ月後の体重増減を比較する場合で、以下のような結果になったとする。
クラス平均 |
出席番号1 |
出席番号2 |
出席番号3 |
出席番号4 |
出席番号5 |
出席番号…… |
|
和食 |
-1.0kg |
+0.5kg |
-1kg |
-2kg |
2kg |
±0kg |
…… |
洋食 |
+1.0kg |
+1kg |
+1.5kg |
+2kg |
±0kg |
-0.5kg |
…… |
和食クラスの体重増減平均は-1.0kgで、洋食クラスの体重増減平均は+1.0kgで。和食は1.0kgの減量になって、洋食は1.0kgの増量になるという結果が、統計的に正しいのか、それとも誤差の範囲かを検定するために用いる
ロジスティック回帰分析(Logistic regression)
説明変数:カテゴリカル・連続変数どちらでも
従属変数:カテゴリカル の多変量解析
ノンパラメトリック
多変量解析の一つで、ある特定の事象が起きる確率を分析するもの
例)癌や糖尿病など特定の病気の有無を目的変数にし、喫煙本数やアルコール摂取量、睡眠時間、コレステロール値などを説明変数にすれば、患者の検査結果から特定の病気を引き起こす要因の予測が可能
→仮に睡眠時間、コレステロール値と糖尿病発症有無の相関関係が見つかれば、発症前にある程度の予測ができるようになり、患者に対して予防やケアの指導が行える
2標本T検定(Two-sample t-test)
対応なし
説明変数:カテゴリカルデータ
従属変数:連続変数
パラメトリック
2つの独立した母集団から抽出した標本の平均に差があるかどうかの検定
例) 学校で行ったテストの点数が1組と2組とで差があるかどうかの検定
対応のあるT検定(Paired t-test)
対応あり
説明変数:カテゴリカルデータ
従属変数:連続変数
パラメトリック
2つの独立した母集団から抽出した標本の平均に差があるかどうかの検定
例) ある薬を投与する前後で血圧がどう変化したかの検定
ANOVA(analysis of variance)
対応なし
説明変数3群以上のカテゴリカルデータ
従属変数:連続変数
パラメトリック
異なるグループの平均値の違いを比較する手法
例)犬種、月齢、運動量と犬の体重との関連
単回帰分析(single linear regression)
パラメトリック
1つの目的変数に対して説明変数が1つである回帰分析
例)九九の習熟度(従属変数)と学習時間(説明変数)の因果関係の検証
両親の身長(説明変数)をもとにした子どもの身長(従属変数)の予測
重回帰分析(Multiple linear regression)
説明変数:カテゴリカル・連続変数どちらでも
従属変数:連続変数 の多変量解析
パラメトリック
結果となる数値と要因となる数値の関係を調べて、それぞれの関係を明らかにする手法
例)宣伝広告、店舗の立地、当日の気温といった要因とアイスクリームの売り上げの関係
反復測定分散分析(Repeated mesures ANOVA)
対応あり
従属変数が連続変数
パラメトリック
同一個体内での条件の違いなど対応関係のある要因 (群内要因) によって生じる群内変動について、3条件以上の反復測定を行い、誤差変動 (全体変動から群間変動と群内変動を引いたもの) に比べて大きいかどうかを判断する方法
・2条件の差を調べたいときは,対応のあるt検定が適用
・「3条件以上の対応のあるt検定」というイメージ
・対象者は全ての条件に参加している必要があり,ある条件では別の対象
者が入る,ということはない
例)整形外科疾患の術後患者10名を対象として,術後1週目の膝伸展筋力,2週目の膝伸展筋力,3週目の膝伸展筋力,と3つ以上の時期に分けて,術後の膝伸展筋力が変化する(差がある)かどうかを調べる場合
例)健常人15名を対象として股関節回旋可動域を測定するとき,①背臥位で股関節90度屈曲位,②背臥位で股関節0度屈曲位,③端座位といった3条件で,回旋可動域がどう変化するかを調べる際
線形混合モデル(Linear Mixed Model)
セミパラメトリック
複数の条件で反復測定されたデータに対して条件による平均の差を検定する手法
→
これまでの一般的な統計手法は、カテゴリカルな従属変数以外は、なんでもかんでもデータを正規分布に当てはめようとし、当てはまらなかったらデータ変換を行い、それでも当てはまらなかったらノンパラメトリック手法を利用するというものだった。しかし、この10年間のパソコンの性能向上とともに、より適切な統計手法が普及してきている。その代表的なものは一般化線形モデルであり、データの性質により分布を選択でき、最尤法によりパラメターを推定するものである。さらに、一般化線形モデルを発展させたもので一般化線形混合モデルという手法が普及し始めている。この手法は、決められた地点から時期をずらし何度もサンプリングを行ったデータや、多数の地域から複数のサンプリングを行ったときに適切なものである。特に、繰り返しの頻度や地域が多いときに効果を発揮し、従属変数が連続変数でなくとも対応できる。
例)反復測定分散分析と同じように,整形外科疾患の術後患者10名を対象とした例をあげます.術後1週目・2週目・3週目の3つの時期に分けて,術後の膝伸展筋力が時期によって変化する(差がある)かどうかを調べたいとします.ここで, 1週目・2週目・3週目のすべての時期で対象者全10名の膝伸展筋力を測定できた場合には,反復測定分散分析と線形混合モデルのどちらを適用しても構いません.しかし,対象者Aさんがやむを得ない事情により2週目の測定を行えず,データに欠損値が生じてしまったとします.このような場合,もし反復測定分散分析を適用しようとするならば,Aさんのデータは除外しなければいけません.一方,線形混合モデルであれば2週目の測定値が欠損しているAさんのデータを含めたままで適用することができます.
例)数学の成績と宿題の量の関係
一般化推定方程式(Generalized Estimating Equations)
セミパラメトリック
正規分布ではなく、アウトカム間に未知の相関関係がある可能性のある反復測定データを解析するための方法
例)喘息患者に一定期間新薬を投与した際の発作の回数と非投与患者との比較
ログランク検定(log-rank test)
生存曲線の比較
ノンパラメトリック
2つの標本の生存分布を比較する仮説検定
例)新しい治療法の有効性を対照群と比較する場合
COX比例ハザードモデル(Cox proportional hazards models)
従属変数が生存時間データの多変量解析
ノンパラメトリック
説明変数が生存時間に与える影響を調べる
例)ある薬を服用した場合の脳卒中発症のハザード率、
製造部品の構成材料を変更した場合の故障のハザード率
一般線形モデル(general linear model;GLM)
正規分布を仮定した検定や解析手法(t検定 F検定 分散分析 ANOVA 等)全体のこと
あまり普及していない名称
回帰式 Y= XB + U
一般化線形モデル(Generalized Linear Model;GLM)
正規分布を仮定しないで正規分布を含む、ポアソン分布、ガンマ分布、二項分布等の指数型分布族から誤差構造を選択できる
ロジスティック回帰分析やCox比例ハザードモデルなど
一般的にGLMといえばこちらを指す
回帰式 Y= β0 + β1Xi1 + …… +βpXip + εi
線形混合モデル(Linear Mixed Model;LMM)
=一般化線形混合モデル(generalized linear mixed model;GLMM)
混合効果モデル(mixed effect model)
線形混合効果モデル(linear mixed effect model;LME)
反復測定による混合効果モデル(mixed effect model for repeated measures;MMRM)
複数の条件で反復測定されたデータに対して、条件による平均の差を検定する手法
一般線形モデルでは固定効果のみのモデルを考えていたが、このモデルでは変量効果も考え合わせる
回帰式 https://ja.wikipedia.org/wiki/一般化線形混合モデル
一般化推定方程式(Generalized Estimating Equations, GEE)
正規分布ではなく、アウトカム間に未知の相関関係がある可能性のある反復測定データを解析するための方法
→ くり返しのあるデータを取り扱う場合の一般化線形モデルというイメージ
回帰式 https://ja.wikipedia.org/wiki/一般化推定方程式
https://mstour.hatenablog.com/entry/2021/03/12/205654
参考 https://healthpolicyhealthecon.com/2016/09/08/regression-2
歯科研究者のためのデータ分析ガイド 2
PURPOSE
歯科研究者がデータ分析をする際に統計担当者とともに適切な手法を選択できるガイドを提供すること
MATERIALS AND METHODS
縦断研究と生存時間解析に適した統計手法を列記する
A縦断研究
1 同時点から開始された縦断研究で説明変数が1つの場合
歯磨剤の使用と、インプラント周囲炎の兆候を認める患者の自覚的な口腔内満足度の関係を経時的に調べたい場合など
→ RMANOVA
2 ある項目を繰り返し観察する縦断研究
2種類の歯磨剤の使用(同時に介入して
いなくても良い)により患者の自覚的
満足度が異なるかどうかを調査したい
場合など → 線形混合モデル
アウトカムがカテゴリカルデータの場合
→ 一般化線形混合モデル
3 2種類の歯磨剤の使用時間も加味した条件で(アウトカム間に未知の相関関係がある可能性がある)調査を行いたい場合など → 一般化推定方程式
B 生存時間解析
4 説明変数が1つのカテゴリカルデータ
2つの治療法におけるカプランマイヤープロットに差があるかどうかを調べたい場合 → ログランク検定
5 説明変数が1つ以上のカテゴリカルデータもしくは連続変数
年齢、使用材料、加入保険の種類の違いがそれぞれどの程度生存時間に影響を及ぼしているかを調べたい場合
→ Cox比例ハザードモデル
CONCLUSION
歯科研究者は統計担当者とともに自身の研究デザインに適した統計手法を選択することが推奨される